福岡保護観察所保護観察官 T

 私とタカさんの出会いは去年の秋でした。施設から出たあとに、初めて会ったときのタカさんは、表情も堅く、少しうつむき加減で、時折きょろきょろと周囲を見渡すなどして、緊張を隠せない様子でした。

「これからダルクで、どんな生活をしていこうと思っていますか。」

 きっと、施設にいた頃にも何度も聞かれたであろう質問に、緊張しながらもしっかりと答えてくれました。そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ、と気の利く雰囲気を出せればよかったのですが、かくいう私も初めてのことで緊張していましたし、しかも、数ヶ月前に刑務所勤務を辞めたばかりで、社会に出て間もない頃。聞きたいことを書いたメモをチラチラと見ながら話をうかがうのが精一杯でした。

 タカさんとは、月に2回プログラムでお会いし、プログラムの前に話をするということになりました。1ヶ月も経つと、タカさんはダルクの生活にすっかり馴染んで、いつもダルクでのいろいろな出来事を話してくれるようになりました。付き添ってくれるイジケムシさんとは、筋トレで競い合うライバルだと、とても張り切っていたのが印象に残っています。

 ダルクのメンバーだけでなく、プログラムに来ている他のメンバーの人とも、プログラム前の待ち時間に話を弾ませていました。プログラムに来ているメンバーにとって、タカさんのように自分と同じ境遇にある人と共感し合えることは、素晴らしいことです。タカさんと同じプログラムを過ごしたメンバーが、たとえ今すぐにではなくても、いつかタカさんやダルクのことを思い出して、繋がるきっかけになればいいなと思いました。

 タカさんと一緒に過ごしたのはたった数ヶ月の期間でしたが、タカさんが、ダルクの中で仲間とともに回復していく姿を目の当たりにできました。大盛況だったダルクのクリスマス会。タカさんは、ダルクの一員として忙しく動き回っていました。そんな中、タカさんは部屋の外でステージを眺めていた私に、料理を手渡してくれました。その時の笑顔は、回復するために何が必要なのだろうという疑問にひとつの答えを投げかけてくれました。そして、一緒に時を過ごしていくことそのものが、私自身の成長にもなれたように思います。

カテゴリー: 215号(2019年5月), ニューズレター パーマリンク